《MUMEI》
古ぼけた写真
 その写真にはライダースジャケットを着た親父と、その古い友人と思われる人物。
そして、二人に囲まれるように満面の笑みを浮かべた若き日の母の姿が写っていた。

「へぇ。この頃の母さん随分と美人だったんだな」

「母さんにはこの事は内緒にしといてくれよ。
わしの隣に写ってるやつがさっき話した男だ。
わしにはあとどれぐらい時間が残ってるのかわからん…。頼む。急いでくれ」

親父はそう言うと寝返りをうち、こっちに背中を向けてしまった。
メモに書かれている住所は三重県の伊賀市。バイクで飛ばしても片道4時間は掛かる距離だ。帰りはバスか何かを使うとして、到底今日中にできることではなかった。
親父の言う通り次に発作が起これば本当にどうなるかも分からないのだ。
──『こうしちゃいられない』
俺は母が付き添いの交代に帰って来る前に出発の準備にかかることに決めた。

「じゃ、今から一旦家に帰って出発するよ。
ちゃんと約束は果たして来るからそれまで絶対にくたばるんじゃないぜ」

親父は黙って背中を向けたまま左手の親指を立てて“OK”のサインを見せた。

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