《MUMEI》
出発
「ええ!?今から三重ですって!?」

妻の典子がヘルメットごしにでも大声と呼べるほどの声を上げる。
結婚2年目。どういう縁かバイクには全く興味の無い嫁さんをもらってしまった。
今回の親父との約束にしてもバイク乗り同士のクレイジーなイベントぐらいにしか典子は思っていないのだ。

「バイクを渡したらすぐに戻る。もし親父に何かあったら連絡してくれ」

「そりゃ分かってるけど…。
ねぇ、本当にただであげちゃうつもりかしら?
聞いた話だけどお父さんのバイク、売れば100万円以上するらしいじゃない」

「さあな。でも100万を渡すわけじゃない。ちょっと贅沢な友情の証ってところじゃないか?」

「んもうっ!バイク乗りってホント馬鹿ばっかり」

まだ文句を言いたそうな典子を皮ジャンで遮って俺はMKUが待ってるガレージへと急いだ。

イグニッションキーを回して高い位置からキック一発。
途端にガレージ中の工具達がカタカタと音を立ててMKUの勇姿に喝采を贈る。
俺は早る気持ちを抑えてMKUの心臓が十分に暖まるのを待った。これがバイクとそのオーナーへの最低限の礼儀だからだ。

『そろそろ行くか』

ガレージ前で耳を塞いだまま見送る典子にピースサインだけを送って日の暮れかかった街へとアクセルを開けた。

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