《MUMEI》 「その…実は‥」 「その前に、一つ聞いてもいいですか?」 洋平の言葉を遮る様に、美樹が声を張り上げた。 「何だ?」 「その、葛原さんって方は人の顔とかすぐ忘れちゃう人なんですか?」 「まさか!!」 本多が答えるより先に声を上げたのは、先程“黙れ”と一喝されたはずの三浦だった。 「あの人が他人の顔を忘れる訳ないですよ!ねぇ、本多さん?」 「黙って運転しろっつったよな…?」 三浦は本多に同意を求めようとしたが、又しても一喝。 本多の、その鋭い眼力で、ギラリと睨み付けられた。 「すいません…。」 三浦は弱々しい声で謝ると、また黙々と運転し始めた。 「あの、それどう言う事ですか?」 美樹は、それでも構わずに三浦に話し掛ける。 しかし三浦からの返答は無い。 代わりに、口パクで“ごめん”と言っているのがバックミラー越しに見えた。 前へ |次へ |
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