《MUMEI》

なぜ?
なぜ、私のことを普通に呼べるの?
サトルは役者?
それとも詐欺師?

こうなったら悪い方に悪い方に考える…

昔、何かで読んだことがある。『恋愛は、その人のほんの一部です』と。。

私が知ってるサトルは私の中での思い込みが作っているのかもしれない。

サトルが好きだ。
役者でもいい。
今はサトルなしでは生きていけない……

私も役者になれば済むことに思えてきた。

それほど単身でアメリカに赴任してきた私にとってサトルの温もりは必要だってこと。。

だけど、、、

泣きたい。

本当の里奈は…いますぐ泣きたい… 私を丸ごと受け入れてほしい…

でも、それをすることでサトルを失うかも…

泣くとサトルを失うかも知れない恐怖にひれ伏した。
「ねぇ、友達、どこで寝てもらったの?」

「ん?ベッドだよ。僕はソファーで寝た」

「風邪ひかなかった?ちゃんと布団きた?」

何のことはない。
サトルの私への笑顔を見ると、吸い殻の口紅なんて錯覚のように思えてくる。

今夜、私を誘うかな…

ミルクティーを大きなマグカップに注ぐ。

背の低い白いテーブルに運ぶ。

………………………………!!!!!!!!!!!

私は絶句した。

うっすらと口紅の色がマグカップの飲み口についている。

遠慮がちに。
しかし、はっきりと存在を強調していた。

テレビを見ながら声をあげて笑っているサトルの頭を後ろから何秒くらい眺めていただろう。

きっと5秒と経っていなかっただろう。

通勤バッグをおもいっきりサトルの後頭部に振り下ろした…………………

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