《MUMEI》

 スパランドの駐車場に入ると建物の窓からこぼれる灯りの下に長身の男が立っているのが見えた。それが岩田だと直感した俺はその傍にMKUをゆっくりと寄せた。
先に男の方が口を開いた。

「てっきり車で来たもんだと思ってたよ。
しかし何てこった。こいつ今でも現役で走ってたのか…」

「親父が毎日みたいに磨いてましたから。まだそんじょそこらの新型にも引けを取りませんよ」

俺は脱いだヘルメットをミラーに引っ掛けながらそう返した。堅苦しい挨拶をしないのはお互い様だ。

「私の家はこのすぐ裏手だ。散らかってるが上がって一息入れていきなさい。話はそこでゆっくり聞こう」

「あ、じゃ、お言葉に甘えて…」

急いで帰らなきゃならない立場ではあったが、どうせ朝が来るまで戻る足はないのだ。俺は言われるままにMKUを押しながら岩田の後について行った。

────

「で、たっちゃんは元気にしてるのかい?」

入れ立てのコーヒーを差し出しながら岩田が聞いてきた。
親父の病気の事を知らされてないのならどこまで話せばよいのか…。
とっさに俺は話をすり替えた。

「父から岩田さんは古くからの友人だと聞いてますが、最近は連絡を取り合ってなかったんですか?」

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