《MUMEI》

 ソファーに深く腰を沈めながら岩田が答える。

「最近なんてもんじゃない。君が生まれる前からずっと会ってもないし連絡も取ってないんだよ」

「何ですって!?
益々分からなくなってきたな…。
言いそびれてましたが、さっき話した父からの届け物というのは僕が乗って来たバイクの事なんです。岩田さんはそのバイクとどんな関わりが?」


「そんな大事なもんを私に…。
たっちゃんも私も二十代の時に単車の魅力に完全にとり憑かれてしまってね…、私もあれと同じやつを手に入れて毎日のように二人で走り回ってた。
公道をまるでサーキットみたいな感覚でスピードを競い合ったりしたもんだよ。
若かったな…、二人とも…」

「なるほど…。
その話と関係あるかどうかは分からないんですけど、岩田さんに会ったら、『あの日1分早く出発した。すまなかった』と伝えてくれと父が、」


その伝言を聞いた途端に岩田の顔色が変わった。
目を閉じ、額に暫くじっと手のひらを当てて考える様子を見せたあと、再び静かに語り始めた。


「あの頃、たっちゃんと私は同じ女性に恋してしまってね。
もう隠しても仕方ないから話すが、それは、君のお母さんだ」

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