《MUMEI》
1分の真実
 気がつけば俺は親父から預かった写真を入れた胸ポケットの辺りに手を当てていた。
謎のままだった点と点がたった今、目の前で線となって繋がっていく。
岩田は続けた。


「ある日、たっちゃんがこんな提案を持ち掛けてきたんだ。
“MKUでレースをして勝った方がプロポーズの権利を穫ろう”ってね。
お互いの自宅から何度もタイムを計ってな、ちょうどフェアに戦える中間地点を割り出したんだ。
 そして決戦の日。しおりちゃん…、いや、君のお母さんをそこに呼び出したのさ。
スタートの合図はラジオから聞こえる正午の時報の約束だった」

「1分早く出発した…。
父は岩田さんを裏切ってしまったんですね…」

「ははは。そんな言い方をするな。
それだけ君のお母さんの事を愛してた証拠じゃないか。
私は全く恨むつもりなんてないよ。だってレースの前から勝負はついてたんだ」

「は?勝負はついてた…?」

「本人は気付いてなかったんだろうが、しおりちゃんは既にたっちゃんに夢中だった。
たっちゃんを追う彼女の視線は明らかに私に向けられるものとは違ってたよ。
それでも私はその賭けに乗った。後腐れなくずっと付き合いを続けるためにはそれが一番いいと思ったからだ」

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