《MUMEI》
逝け花
「……枯れてるのに」
ルナがぽつりと言葉を漏らす。
なづきのスケッチブックには咲き誇るシクラメンの花が存在していた。

「何を描いても自分の勝手だから。あんたはイカれた女でも描いてれば?」
なづきは高文連に備えて花のスケッチを進めている。


「……イカれてない、あれは人間の一部だよ。なづきだってスケッチブックを通して咲いたシクラメンを映しているだろ。
俺にも見えるんだ、人の有りのままが。」
ルナはなづきの描くものを横目に話し出した。

「分かんないね」

「いや、マゼンタなら分かる。だから話したんだ。」
ルナの瞳は瞬きが少ない。なづきの描くものをただただ見つめていた。


規定のサイズのF30のキャンパスは使わなくなった先輩達の絵を剥がし新しく張替える。

キャンパスは何故か魚の餌の臭いがする(となづきは思っている)。

なづきは佳代に手伝ってもらった。
佳代はかなりキャンパス張りが上手い。
シワの寄らないぴんと伸びた真っ白の空間に何色を配置するかと想像するのがなづきの楽しみだ。


「……ねー」
ルナがなづきをじっとみつめている。
机の上には木枠やキャンパス張りのセットが一式揃っていた。
なづきは意識的に見ないようにする。


「ねー、チョコレートあげるからー」
ルナは板チョコをちらつかせた。


「全部?」
なづきは空腹を覚えた。


「半分。」


「乗った」
腹が減っては絵は描けない。


上下左右に専用の釘を打ち付ける。
張るためには一人が専用の道具を使い、もう一人はトンカチを使うようにする二人三脚作業である。

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