《MUMEI》

そんな僕を見た克哉さんは、何も言わずに逞しい腕で僕をしっかりと抱きしめてくれて、ちょっとは反省してくれたみたいでよかった。


石造りの建物の中を進んで行くと、だだっ広い空間に足音やカートの音が響き渡る。

(ココを抜けてくのか…本当にこんな所に人が住むような場所ってあるのかなぁ?)

こんな骨董品みたいな古い建物の中なので、もちろんエレベーターなんか無いから自分でスーツケースを持って上がる。

途中、克哉さんが手伝おうとしてたけど、僕は丁重にお断りした。

僕だってこのくらい大丈夫だよ…変な所で女扱いするな…。


何個も扉を開ける度に、その古さにいちいち驚いてしまう。

(掃除とか大変そうだな…壁とかも削れてるし…)

「ここだ」

螺旋の階段を上がって鍵のある扉の前に着くと、克哉さんは内ポケットからカードを取り出しながら手袋を外し、そのカードを差し込んでから指を当てると鍵の開く音がした。

(こんなに古いのに、ココだけハイテクなんだ…)

「寒い時期は反応が鈍くなるからな…あぁ、後でアキラのも登録しておかなきゃな」


扉が開くと中にもう一つ廊下のような空間があって、そこから今度は昔のお伽話に出てきそうな古い鍵を取り出して扉を開けると中からパァーッと明るい日差しが入ってきた。

「ココだ、何部屋か空き部屋はあるから適当に使ってくれ」

そういえば克哉さん『一人で暮らしてるから寂しいんだ…』とか言ってたような気がした。

(本当に一人だけなんだ…)

部屋の中を見渡すと、物がほとんど置かれて無くて本当に必要最低限な家具くらいしか無くて、観葉植物さえも見当たらないくらい殺風景な眺めだった。

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