《MUMEI》
寂しい空
里美は、水を汲んでから帰宅して、家事に取りかかっていた。

・・・一年前まで世界的な戦争があり、里美が暮らしている街にも戦火が降りかかった。

大地は焼け、人心は荒み、多くの命が失われた。

かろうじて戦勝国となったが、政府には国全体の復興に取りかかるだけの余力もなく、首都を中心として、一部の地域だけの復興を急ぎ、弱体した国力の回復を目指していたが、地方に手を差し伸べるにはいたっていない。

水道から水が出ることも、ずいぶんと途絶えたままになっている地域が多かった。

里美は、家事を済ませてから一息入れるため、湯を沸かし始めた。

電気だけは復旧が早かったため、湯沸かしにはポットが使えた。

ティーポットに、戦地から友人が送ってくれたティーパックを入れる。

里美の親友・さちは、地球圏平和維持機構の平和維持部隊に所属する、メタルアームのパイロットだった。

メタルアームとは、先進国が開発を始めた月面都市に配備された、軍用ロボットである。

一年前の戦争でも使用され、地上、宇宙問わず、飛び回っていた。

里美が生まれてすぐも、戦争が起こり、結果メタルアームの開発と生産に制限がかけられたが、遵守する国家、組織は少なく、監視する国際組織として地球圏平和維持機構が設立された。

さちは、メタルアームによる被害と、願わくば戦争という過ちが繰り返されないようにと、地球圏平和維持機構に所属したが、所属して間もなく大規模な戦争が起き、戦場に立つことになった。


戦場から、さちの手紙とともに、彼女が愛飲しているという紅茶のティーパックが送られてきたのは、戦争が始まって2ヶ月、三年ほど前からだ。

元気にしているという手紙と、ティーパック一箱。

一年と少し前まで、手紙は毎月届いていたが、特別な作戦に参加するという手紙を最後に、手紙は届かなくなった。

未帰還・・・

風の噂でそう話を聞いたが、まだ、里美は信じきれずにいた。

口下手で、クールビューティーという印象ながらも、時折見せる笑顔を、いつか見せに帰ってくるんじゃないかと、里美は紅茶を飲みながら、祈っている。

湯が沸いたことを示すランプが点いたことを確認して、里美はティーポットに湯を注いだ。

湯気が、部屋の空気を湿らせる。

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