《MUMEI》
親友を乗せて
 
「君、まだ続けて走れるかね?」

クローゼットから取り出したライダースを慌ただしく羽織りながら岩田が訊いた。

「は、はい。僕は平気ですが…」

「たっちゃんをこのままで逝かせてしまうわけにはいかん。
すぐに彼の所まで乗せていってくれ」

断ることなどできる筈もなかった。
俺は先に表に出てMKUに火を入れた。
渋いアイボリーのフルフェイスヘルメットを被りながら出てきた岩田がタンデムシートにまたがり、

「よし、OKだ」

と背中を二回叩く。
人影のなくなった国道にMKUの遠吠えがどこまでも響き渡った。



初めて引っ掛かった信号で岩田が言った。

「さっきは怒鳴ったりして悪かった。
しかし親子ってのは単車の転がし方まで似るもんかね…。
まるでたっちゃんのケツに乗っかってるみたいだ。
懐かしくてさっきから涙が止まらない…」

俺は黙って親指を立ててそれに応えた。
もちろんそのポーズは親父の真似だ。


そして信号が青に変わり、再び俺達は勢いよく飛び立った。

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