《MUMEI》
わがまま。
スーパーに着いて、手前の野菜コーナーから見て回る。

「今日はピーマンが安いんだね」

「あたしピーマン嫌いだから買わないでよ」

カゴを持ったアキが、スタスタと歩いて行く。


「…ピーマンだけじゃなくて、野菜全般が苦手なんじゃん」

小さく呟いて、早足で追いかける。


アキほど食わず嫌いの多い人を、わたしは他に見たことがない。

野菜に関しては「ガリガリした食感と味が嫌!」らしく、カレーやシチューみたいに煮込んだものしか食べない徹底振り。
キャベツの千切りすら口にしないから、わたしはいつも献立に迷って居る。

わたしと会う前は、どんな食生活を送って来たんだろう…?


「ねっ、このお肉3割引きだって。あたしこれ食べたい」


考え事をしてる内に、例の精肉コーナーに来ていたらしい。

アキの手には、普段なら絶対に買わない様な値段のステーキ用牛肉が握られて居る。

「3割引きって云っても、…1000円以上するじゃない。高いよ、アキ」

「えー、たまにはいいじゃん」

口唇を尖らせるアキに、わたしは鶏肉を手渡す。

「チキンガーリックステーキならOK」

「…それも魅力的だけどさぁ」

アキは両手で抱えたお肉を、愛おしそうに見比べる。
そして、諦め顔で牛肉を棚に戻しかけた時、



カシャ

「あ…!」




飯嶋さんが半額のシールを、牛肉のパックに貼り付けていた。

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