《MUMEI》 親父の居る病院に着いたのは東の空がうっすらと紫色を帯び始めた頃だった。 MKUを停め、岩田が先にシートから降りるのを見届けてから俺もそれに続いた。 「疲れてませんか?」 「いや、大丈夫だ。君は?」 「平気です」 短い言葉を交わしながら俺達は通用口から院内へと入った。 親父の病室のある階の廊下に出ると、部屋の前に典子の姿が見えた。 俺に気づいて小走りで駆け寄って来る。そして、一緒にいる岩田を見てぺこりと頭を下げた。 俺は典子に向かって彼と一緒にいる経緯は省いて 「昨日話した親父のお友達の岩田さんだ」 とだけ言った。 典子も訳ありを察してか 「妻の典子です。わざわざ遠いところまでありがとうございます」 と礼儀正しく返すだけに留めた。 三人で病室の方に移動しながら話を続ける。 「ちょうどあなたに電話しようと思ってたところなの」 「容態が悪くなったのか?」 「発作は起こしてないんだけど周期的に痛みが来てるみたい」 「そうか…。今、母さんは?」 「中よ」 「入っても大丈夫だよな」 「うん。今は落ち着いてるわ」 俺は病室のドアを静かに開けたあと、『さ、』と岩田の背中を押して中に入った。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |