《MUMEI》
再会
「岩田さん…」

 寝ずの看病で衰弱した母の唇は岩田の名を呼ぶだけで精一杯の様子だった。
暫し胸の痛みから解放された親父はその傍らで眠っている。

岩田が歩み寄り、「暫くだったね…」と両手で肩に触れると、母は大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。

「せっかくまたこうして三人で会えたのに泣いてる時間は勿体無い。笑っていようよ、昔みたいに…」

そう言う岩田の目も今にも溢れそうな涙を一杯に抱えている。


「あ…、お父さん」

目を覚ました親父に典子が初めに気づいた。
岩田はベッドの脇に寄って

「よっ!たっちゃん」

と親父のおでこを手のひらでぺしりと叩いた。
すると親父はまるで子供のような泣き顔でくしゃくしゃになりながら

「耕ちゃん…、俺は、俺は…」

と言いかけの言葉を詰まらせた。

「たっちゃん、分かってる。全部分かってるからもう何も言わなくていいんだ。
ちょっと遠回りしたかもしれないが、俺達は昔のまんまこうして向き合うことができた」

「でも耕ちゃん、俺はもう駄目だ…。大切な親友を裏切った罰なんだよこれは…」

「馬鹿なことを言うなって、たっちゃん」

その時、俺は親父の異変に気づいた。
親父の瞳が徐々に色を失っていく感じだ。

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