《MUMEI》 「あ、早くはやく!!」 おれがゴジラを連れておれんちの前に行くと、 着替えを済ませた蓬田が大きく手を振っておれを呼んだ。 なんだ? おれが駆け寄ると、 「ほら、見て!!」 蓬田が自転車のカゴから、鉢植えを取り出しておれに見せた。 赤い花が揺れている。 「…これ…」 おれが蓬田を見ると、 「前田さんがくれたの!!すごく綺麗でしょう? …大切に育てなきゃね」 蓬田はにっこりと笑って、花びらを優しく撫でた。 胸が、苦しくなった。 蓬田は鉢植えを戻してしゃがみ込むと、ゴジラにその手を伸ばす。 「いい子にしてた??椎名くん困らせたらダメだよ」 言いながら、おれを見上げる。 「ゴジラ、イビキうるさいでしょう?」 くすぐったそうに笑う。 咄嗟に、目を逸らしてしまった。 香織センセー… ―…全然、大丈夫じゃねえ。 心臓が 壊れそう だ。 前へ |次へ |
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