《MUMEI》 【最終話】ノスタルジアあんなに安らかな顔をした親父を見たのは何年ぶりだったろうか。 母も岩田も言葉もなく立ち尽くしたまま親父の顔をずっと眺めていた。 『3人だけにしてやろう…』 そう思った俺は典子を連れて病院の外に出た。 たった今親父が逝ってしまったというのに、何故だろう…、悲しいという気持ちにはならなかった。 停めてあったMKUに寄りかかった俺に典子が言った。 「昨日バイク乗りが馬鹿ばっかりだなんて言ってゴメン…。あれ撤回ね」 俺は唇の端っこだけで微笑んで煙草の先に火を点けた。 「なぁ、典子」 「ん?」 「最後に岩田さんが親父に言った1分早く出たって話。あれ本当かな?」 「私、全部の話を知らないもの…」 「あ…、そうだったな…。 ま、いいか…」 『全てを知ってるのはこのMKUだけなのかもしれないな…』 ふぅっと吐いた煙草の煙を、その時に吹いたノスタルジックな風が澄みきった秋空に天高く舞いあげていった。 ─ end ─ 前へ |
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