《MUMEI》
レベル2 拓磨
「くそぅ!拓磨、行け!」

「はいよ」


拓磨は祐にサンドバックを渡した。


祐の足元の床には、黄色のビニールテープが貼られていた。


「俺の蹴りを受けて、そこから30センチ以上動いたら、負けですからね」

「了解」


祐はニヤリと笑った。


「先輩、大丈夫かしら…」

俺の隣のレベル3の女子が呟いた。


(普通は大丈夫じゃないよな)


拓磨は祐より体格が良かった。


「あぁ、君達は一年生だから知らなかったね」


いつの間にか俺の隣にいた葛西先輩は、祐の心配を全くしていなかった。


「何を…」


バキッ!


俺の質問が終らぬうちに、拓磨のキックが炸裂した。

何人かの女子は、思わず目を閉じていたようだが、俺はその瞬間を目撃した。


…信じられない事に、祐は一歩も動いていなかった。

「素人にしては、いい蹴りしてんじゃん」


ニヤリと笑う祐を見てから、俺は葛西先輩を見た。


「母親の影響で、あいつ、子供の頃から空手習ってるんだ。
一年生の時、俺、必死で勧誘して、その時仲良くなったんだ。…結局入ってもらえなかったけどね」


そう言って、葛西先輩は苦笑した。

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