《MUMEI》
普通じゃない美容院
「志貴、荷物は?」


真っ赤な外車を校門に横付けして、俺達を待っていた津田さんの母親の貴子(きこ)さんは、首を傾げた。

「…教室に置いてきた」


「じゃあ、きっと、誰かが届けてくれるわね」


貴子さんは確信を持ってそう言った。


ちなみに、俺は引っ張られながらも、とっさに荷物を抱えていた。


「じゃあ、行きましょうか」


「うん」

「…よろしくお願いします」


津田さんは助手席に、俺は後部座席に乗り込んだ。


そして、貴子さんの運転で、俺達は、高そうでお洒落な美容院にやってきた。


「いらっしゃいませ」


俺達を待っていたのは、店長らしき三十前後のお洒落な服装のイケメン美容師と、数名の若い従業員達だった。


「…もしかして、貸し切りですか?」


他の客の姿が無いので、恐る恐る俺は質問した。


「もちろん」

「当然」


津田さん母子はきっぱりと答えた。


(普通、文化祭の為にここまでするか?)


さすがに世間知らずな俺でも、すぐにわかった。


(絶対、しない)


チラッと見たこの美容院の値段表は、以前俺が駅前でもらった普通の美容院のチラシに書かれた金額よりも、遥かに高額だった。

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