《MUMEI》 改造開始「ヘアカットとトリートメントとフェイスエステと眉毛カットね」 「かしこまりました」 (えぇ!?) ただ、髪型を変えるだけだと思っていた俺は、椅子の上で激しく動揺した。 「あの…俺、そんな金無いです」 シャンプー台へ誘導されながら、俺は若い従業員の女性に訴えた。 俺は今日、一万円用意していたが、貴子さんの言った内容は、予算を遥かにオーバーしていた。 「お金だったら、もうもらってますよ?」 「え?」 俺は、店長と並んで様子を見守る津田さん母子を見つめた。 俺と目が合うと、二人はまた、当然というような顔で微笑んだ。 (いや、だから、普通じゃないだろ、これは!) 「じゃあ、洗いますから」 否応無しに、シャンプー台の前に座っていた俺の椅子が倒された。 素顔の俺と、従業員の目が合う。 「し、失礼します」 そう言って、従業員は慌てて俺の顔に薄い布をかけ、髪を洗い始めた。 「あ、熱くないですか?大丈夫ですか? かゆい所は無いですか?」 (丁寧な接客だな) しきりに俺に質問する従業員に対し、俺は何度も無言で頷いた。 前へ |次へ |
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