《MUMEI》
本番開始
客席の照明が消され、逆にステージが明るくなる。


幕が上がると同時に、黄色い悲鳴が上がった。


最初のシーンは、俺…『孝太』抜きの、『シューズクラブ』だった。


「いらっしゃいませ!ようこそ、シューズクラブへ」

俊彦さんの特訓のおかげで極上の笑顔と甘い言葉・それに、優雅なエスコートを完璧にマスターした高山に、観客は夢中だった。


高山には及ばないが


元々モテるから、女の扱いにはなれている真司の『雅彦』や


王子役に慣れている演劇部員の『和馬』にも


女性達の歓声が上がった。

そして、次は、営業を終えた三人が、向かった先…


『クローバー』のシーンに変わる。


(やっぱり叫ぶのか)


津田さんにスポットライトが当たった途端、歓声は女性から男性のものに変わっていた。


華やかな登場人物達が、おしゃれな喫茶店のセットで会話を交わす。


話題の中心は、新しく『シューズクラブ』の店員になる


孝太


つまり、俺の事だった。


「田中君、準備して」


「はい」


相田先生に言われて俺は、分厚いレンズの丸メガネをかけた。


最初の俺の衣装は、年季の入っていそうな紺のジャージだった。

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