《MUMEI》
再び鉄塔
 街は不気味なほど静かで人の気配はない。
しかし、どこかで何かが動いているような気配はしていた。
 羽田と凜は自然と無口になりながら歩いていた。
しばらくして、ようやく自分たちが来た道まで戻った二人はそこで立ち止まった。

「……で、どの辺りで気付いたんでしたっけ?」

凜の言葉に羽田は記憶を探る。

「たしか、副長さんと別れたあたりだと思うんだけど……」

「ということは――」

言って凜は視線をさ迷わせ、少し離れた場所に見える鉄塔を指差した。

「あそこですね。とりあえず、行ってみましょう」

二人は再び歩き出す。
鉄塔に到着するまでの間も、人はおろかマボロシにすら遭遇しなかった。
時折、遠くからガラガラと何かが崩れる音が聞こえてきたが、それだけだった。

「着いちゃいましたね」

鉄塔の真下で凜は肩をすくめて羽田を見る。

「何か、わかりましたか?」

「……ぜんぜん」

羽田は力無く首を振る。
肩に目をやると、テラが眠そうに欠伸をしていた。

「もしかしたら、テラが鳴いた時に何かあったのかも」

羽田はふと思ったことを口にしていた。

「テラが? いつですか」
凜はわずかに首を傾げる。

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