《MUMEI》
変身中
ここからしばらく、舞台は暗闇のままだ。


セリフを言う役者のみにスポットライトが当たるシーンに入る。


ハサミの効果音が流れる。

「…意外と、いい顔してるんじゃない」


麗子が驚く。


「メガネ、無い方がいいな」


俊彦が床に落ちたメガネを拾いながら言う。


ハサミの効果音が消える。

「「服装は任せて!」」


麗子と仲のいい結子(ゆいこ)と愛理が、声を揃えた。


暗闇の中で、演劇部員と一年五組の生徒が協力して、『岸美容室』のセットを片付け、かわりに『クローバー』のセットを用意する。

俺は、ウィッグとジャージとスニーカーを脱ぎ捨て、白いYシャツと、黒い短パンと黒いハイソックス姿になった。


孝太のイメージを尊重して、合宿で着た時よりも衣装はシンプルなデザインと色合いに変更されていた。


「はい、田中君」

「ありがとうございます」

更に俺は、相田先生が持ってきた黒いジャケットを着て、黒い革靴をはいた。


「頑張ってね」


相田先生は俺の脱ぎ捨てた物を回収して、ステージ横に移動した。


「よし!じゃあ、お披露目だ!」


俊彦の声と共に、ステージ全体が明るくなった。

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