《MUMEI》

「えっ?」
 それは俺にも想像できたが、ここは意外そうな声を出しておいた。俺がその一人に間違いは無いのに。
「だから普段は学ランに制帽被って硬派な格好してるよ。頭もわざとぼさぼさにしてね」
 これ以上、この話を続けるのはやばそうなので、他の話題を一生懸命探していると、
「ねえ、吾郎さん。男同士でセックス出来るの?」
 俺はぎょっとした!
「そ・・・それは?」
「例えば吾郎さんだったら、どんな男の子が好み?」
 真っ赤になって絶句している俺を、小悪魔みたいな顔で見ながら忍はくすりと笑いワインを空けた。からかってやがる・・・

 レストランを出て銀座駅に向かう途中で、忍の様子が変なことに気づいた。
「・・・し、忍君!大丈夫か?」
「・・・ご免、気持ち悪くなっちゃった」
「はじめてなのにワインをあんなに飲むからだよ!」
 背中をさすると大丈夫と言うので、俺たちは地下鉄で新宿へ向かった。
 鳥居家は新宿と新大久保の中間ぐらいにある。東京としてはちょっと寂れた区画にあった。
 新宿駅から歌舞伎町の喧噪を避け、その脇を通って住宅地に入って行く。住宅地と雖も、ここは新宿。あちこちに料亭やラブ・ホテルがある。
 忍の肩を抱いてよろよろと歩く俺たちを、ラブ・ホテルを出入りするカップル達が興味深そうに見る。
「ちょっと・・・やばい」
 俺は口を押さえた忍を小さな公園に連れて行った。ブランコが二つぶら下がっている脇の水飲み場に直行した。
 忍に水を少し飲ませると、俺はベンチに一緒に座った。忍の肩に手を回し背中をさすった。忍はぐったりと体を俺に預け、頭を俺の頬に付けた。
「しの・・・ぶ。大丈夫か?」
 俺ははじめて忍を呼び捨てにした。
 俺の胸は興奮に燃えだした様だ。

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