《MUMEI》

 次の一週間は毎日が地獄だった。
 俺は何と言うことをしたのだろう。兄貴の親友だと思っていた男からキスされたなんて。兄には言えないだろうし、忍は傷ついただろう。俺のしたことを軽蔑しているのだろう。
 忍の事を想うたびに心臓がきりきりと痛む。
 恋か?
 少年に?
 男に焦がれてどうするというのだ?その手の小説や雑誌を読んだことはある。男同士でも愛の行為が出来るという。しかし、そんなことをすれば忍を失う・・・その兄の親友もだ!

 一週間経った。
 俺は二時間も前から、マリオンの前の石のベンチに腰を下ろしていた。
 忍は来やしない!だがこれで良いんだ。今日で終わる。失恋ということで。
 今まで幾人かの女の子に恋をしたと思っていた。しかし、嘗て経験したことのないこの心の痛みは何なんだ?
 本当の初恋?

 早く来た時間と同じ時間が、五時を回って過ぎていた。
 俺には時間などどうでもいい概念だった。苦しい息を吸うのに何時間もかかる様な気がした。
 俺は深夜まで、ここに身じろぎもせず頭を抱えて座っているだろう。それで胸の痛みを少しはやり過ごすことが出来れば良い・・・

 俺の前に誰かが立った。
 目をそっと開くと足が見える。青いサンダル!
 ベルボトムのぴったりとしたジーンズ。水色の絹のタンクトップ!そして責める様な瞳をしたシバの女王!
「・・・呆れた。もうとっくに帰ったと思ったのに!」

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