《MUMEI》

「…おっめ、…マジ、運動 しなさすぎ…っ」



―…走り始めて十数分。椎名くんが息を切らしている。



「ご、ごめん…運動、苦手なんだ…。小学校から―…」



結構走ってるのに、私は殆ど疲れを感じていない。


こんなの、初めてだ。



ちょっと気持ちいい。



「べ…つに、謝るこ、とじゃねえけど、さ…」



切れ切れに発せられる言葉には、元気がなかった。



「…ちょっと休む??」



心配になって問いかける。



と、



「―…いや、いい!!…最初、は…優しく、しようと思ってたけど…」


「…思ってたけど??」


「―…スパルタ、決定!!」


「え!?」


「おま、体にわりい、だよ!!この、運動不足加減!!!」


「…………」



はあはあと肩で息をしながら横を走る『私』の姿―…椎名くんを、まじまじと見つめてしまった。



「―…んだよ、文句あっか…?」



視線に気付いた椎名くんが、少し怖い口調で言う。


私はかぶりを振って、顔を前に向ける。



…視線だけ、横の椎名くんに戻す。



椎名くんは、あーくそ、とか小さく悪態をつきながらも、しっかり前を向いて走る。



…結局は、椎名くんがきついのに。


走って、苦しい思いをするのは、椎名くんなのに―…



椎名くんは、私のために、走る。


文句を言いながら、でも前を向いて。




―…走ってくれる。

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