《MUMEI》
学生寮の正月
「正月といえば雑煮だなぁ、春日君。」
「あのお餅がないので雑煮は無理ですよ、寮長。」

我妻竹宮学園 学生寮 寮長 伊藤 常彦と副寮長 春日 可菜は男子寮の食堂にいた。長期の休みに学生寮に残っているのは全体の1割程度だ。残る理由はいろいろあるんだろうが、常彦の理由はそのなかでも特に変わっている。本人いわく、
「寮長は寮にいるから寮長なのだ!」
だそうだ。それに影響されてか副寮長の可菜まで残るようになってしまった。


「あけましておめでとうございます、寮長。」
「そういえば君も残っているんだったな、棚宮君。」
「はい。この時期家にいると忙しくて。」
「実家が神社というのは難儀なものなのだな。」
食堂にやって来たのは1年の棚宮 亜子だ。剣道部のホープとして学園内では有名だ。3年である常彦や可菜も彼女には一目おいていて『女子寮警護長』などという二つ名まで与えている。
「今日は赤城君とデートだったかな?」
「!!」
亜子は見事に赤くなった。真っ赤になった顔がなんで知ってるのとうったえてくる。
「いや、普通に赤城君が教えてくれたぞ。嬉しそうに。」
「あいつはバカだ、絶対バカだ……」
琴への恨み言を満足いくまでこぼしまくる亜子を見ながら、常彦は首をかしげる。
「春日君。これが俗に言うツンデレというものかね?」
「どこから得た知識ですか、寮長……」


可菜のいれたお茶を飲みほして亜子が言う。「別にデートじゃありません。あいつの妹さんが今年受験だそうですので、ウチに案内してあげるだけです。」「ちゃっかり妹さんを利用して神社である実家に連れこむとは…。なかなかの策士だな、棚宮君。」
亜子は無言で常彦を殴った。
「自業自得です、寮長。」
可菜は念のために救急箱を探した。



「あけおめっす。寮長。」
可菜に手当されながら常彦は答える。
「年始の挨拶を略すな、時津君。」
時津 正明。家庭の事情で寮に残っている1年だ。琴とは部屋が隣同士なので仲はいい。
「赤城のヤツ知りませんか?」
「赤城君なら実家に帰ってるはずだが。」
「いやそれが昨日の夜からあいつの部屋がやかましくて。てっきり戻って来てるのかと。」
「やかましい?」
常彦がいぶかしげに聞く。
「どっちかというと、やかましいっていうよりは、かしましいですかね。女の声が聞こえましたから。」
「…女の声……?」
反応したのは亜子だった。

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