《MUMEI》
嘘は通用しない
「…何で?」


俺の質問には、様々な意味が含まれていた。


何で、バレたのか

何で、俺を責めないのか


志穂さんは、後者の意味の何でにだけ答えた。


「田中君は、志貴ちゃんの本気の告白に、ちゃんと、答えてくれていた。
あ、答えっていうのは、yesの意味じゃなくて、真剣に向き合ってくれたって意味ね。
そこは、…ありがとう」


「い、いえ…」


(びっくりした)


まさか、お礼を言われるなんて思ってもいなかったから、俺は焦ってしまった。

「…ずっとずっと、好きな人がいるんでしょう?」


(この人、どこまで鋭いんだ!?)


俺は、志穂さんに嘘をつくのは不可能だと考え、大人しく頷いた。


「その人以外は、ダメなんでしょう?」


俺はまた頷いた。


「もしかして、志貴とはもう、関わっちゃいけないとか…考えてる?」

「だって、俺は、津田さんにとは付き合えないんですよ?」


だったら、近づかないのが普通だと思っていた。


だから、俺は、津田さんには俺がずっと好きなのは男で、女の津田さんとは絶対に付き合えないと説明して

津田さんに、嫌われようと思っていた。

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