《MUMEI》 計算済み「志穂さんは、気付いてました…よね?」 津田さんは俺より背が高いし、存在感が大きかった。 その津田さんに、志穂さんが気付いていないわけはなかった。 「…ごめんなさい」 志穂さんは、俺を手招きした。 「だから、私と祐希の関係も…田中君の相手の事も、詳しく言わなかったの」 そして、志穂さんは更に、俺について… 「田中君、…その、男性同士だと、…慎と、同じ立場よね? …それから、お相手、もしかして… 亡くなって…る?」 (やっぱり、この人には敵わない) 俺は、小さく頷いた。 「誰にも、言わないから」 志穂さんの言葉は信用できると思ったから、俺はまた頷いた。 「あの…」 俺達の小声のやりとりを、離れた位置から見守っていた津田さんが口を開いた。 「志貴ちゃんは、私みたいに口の動き読めないし、一応死角で口動かしたから大丈夫よ」 (それも計算済みか) 俺は、ひたすら、志穂さんに圧倒されていた。 (これで、専業主婦なんだからな…) 時々、趣味をいかしてお菓子教室を開いているらしいが、俺は正直、才能溢れる志穂さんが何故専業主婦で満足しているのか、不思議だった。 前へ |次へ |
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