《MUMEI》
急変
「あ、おはようございます」

「おはよう」


翌日は月曜日で、燃えるゴミの日だったから、俺はいつも通り屋代さんとゴミ捨て場に向かった。


「? 何ですか?」

「いや、…まだ、その顔に慣れなくて」


視線を感じて屋代さんに質問すると、屋代さんは苦笑しながら答えた。


ゴミ捨て場には、数人のアパートの住人が来ていて、彼等はいつもは屋代さんだけに挨拶していた。


「こ、こちらの、方は?」

(…方?)


そのうちの一人が指差したのは、俺だった。


「いつも会ってるだろ? 俺の隣の田中君」


「ええぇぇ!」


(朝からうるさいな)


その場にいた全員の悲鳴のような驚きの声に、俺は耳を塞いだ。


「あ、ごめんねぇ」


(何だその猫撫で声は)


「いえ…」


俺はゴミをいつも通り置くと、部屋に向かって歩き出した。


屋代さんは、何やら集団に捕まっていた。


(男が男の顔に、普通こんなに騒ぐか?)


首を傾げながら、部屋の前まで来ると…珍しく、左隣のドアが開いて、大学生が出てきた。


彼の口は、俺を見て『あ』の状態で固まっていた。


「おはようございます」


俺は、頭を下げて部屋に戻った。

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