《MUMEI》

アキラに自分の不満をぶつけてしまい申し訳なく思っていると、アキラは俺の背中をまるで子供にするかのように優しくポンポンと叩いてきた。

「それは多分、克哉さんを信頼してるんですよ」

信頼…あぁ、あれはそういう事だったのか…。

そう言われてみればあいつはよく『信じてるよ』と俺に向かって言っていたり『克哉の言う事だから間違いないな』という言葉を多用していた事を思い出した。

意外にもアキラに諭されてしまったような形になってしまったな…。

「お父さんから信頼されてるって…いいですね…」

そう言ってアキラはどことなく寂しそうな顔をしていた。

父親と仲でも悪いのだろうか、日本の父親は厳格で傲慢だというからな…。

ドイツも同じなんだろうが。

でも、ウチの父親はイタリアの血が半分入っているので、どことなくイタリア人のような適当さがあって、ドイツによくあるようなタイプの厳格な父親では全くなかった。

ただ、一度だけしか会ったことのない祖父はまるで銅像のように厳めしくて、子供心に『これは人間なんだろうか…本当は悪魔なんじゃないか?』と思った程恐ろしかった事を思い出した。

= = = = = = = = = = = = = = = =

「あぁ…克哉さん、一月もすれば帰ってしまうんですね」

克哉さんが日本に滞在するのは一ヶ月間、休みで言えばかなり長い方だけど…。

長いようで、何だか短い。

僕は、何とも言えない気分になってしまった…。

「そうだな…正確に言えばあと25日くらいだが…」

克哉さんと出会って数日。

もっと言えば数時間ぐらいしか経ってないのに…。

こんなにも…離れるのがつらい…。

「ドイツかぁ…遠いなぁ…」

…何でだろう出会ったばかりなのに、克哉さんとはすごく昔から一緒に居たみたいに思えてしまっていた。

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