《MUMEI》 スローバラード「あら。今度はチークタイムに変わったみたいだわ。 これは男性の方から誘うのが礼儀ってもんよね」 そう言ってまた例のイジワルな視線がこちらに向けられた。 僕は一瞬躊躇ってしまったが、シャツの襟を正したあと、指を揃えた手のひらを彼女の方へ向けこう誘った。 「よろしければ僕と踊っていただけませんか?」 彼女は満足げな笑みを浮かべ、 「はい。よろこんで…」 と差し出した手のひらに指を重ねてきた。 僕はその指をそのまま自分の肩へと導き、両腕で彼女の背中を優しく包み込んだ。 そして、甘いリズムに合わせ規則正しいステップでフロアに三角形を描きながら、次に何を喋ろうかと頭の中で言葉を巡らせていた。 先に口を開いたのは意外にも彼女の方からだった。 「ねぇ、マスター。 今こうして踊ってる私に"女"を感じる?」 彼女らしく唐突にして大胆な質問だった。 「ええ、もちろん。 髭がファンデーションから突き出てこないうちはね。ははは…」 「もう!いつも肝心なところでジョークで逃げるのは昔からマスターの悪い癖よ。 ちゃんと真面目に答えなさい」 「は、はい…。危険なほどに感じてますとも"女"を。 でもどうしてそんな事を訊くんです?」 前へ |次へ |
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