《MUMEI》
揺れる心
俺に背中を叩かれながらも、祐は話を続ける。


「普通は、コロッケにはソースだろ?でも、俺は、醤油が一番美味しいって思うから、醤油で食べる」

「それがどうした!離れろよ!」

「恋愛も同じだ。普通は、男女が当たり前。恋人は、一人じゃなきゃ当たり前、だろ?」


男女が当たり前


ズキッ


何気ない一言に胸が痛んだ。


「でも、俺は違う。俺は、雅樹が、沙希が、…祐也が好きだ」


(俺だって)


熱い口調で語る祐の腕の中で


(俺だって、…)


俺は、旦那様の事を思い出していた。


「大人しくなったな…祐、也?」


俺を見下ろす祐の目が大きく見開いた。


「何で、泣いてるんだ?」




俺はとっさに顔を隠した。

俺は、無意識に泣いていたのだ。


「おい、祐…」


ドカッ!


俺は無言で祐の急所に蹴りを入れた。


本気の蹴りだったから、祐はかなりダメージを受けていた。


それなのに。


ベッドから降りた俺の腕を、祐は無言で掴んできた。

「離せよ!」

「…んでっ」


祐は、必死で声を絞りだした。


「何で、泣くんだ? 好きなヤツがいるのに、何で時々辛そうな顔をするんだ?」

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