《MUMEI》
お父さん
現れたのはスーツを着た男。
髪の毛には白いものが混じり、顔には幾筋も深いシワが刻まれている。
しかし、その目はとても穏やかで、優しく二人を見つめていた。
「遅れたよね? ごめん」
ミユウが言うと、男は小さく微笑んだ。
「いや、大丈夫。二人に会えると思うと待ってる時間も楽しみだったよ」
「なにそれ。デートじゃあるまいし」
ミユウは笑いながら言うと、ミライの背中をポンッと押した。
「ほら、ミライ。覚えてるでしょ? わたしたちのお父さん」
ミライは一歩前へ出て男の顔を見上げた。
「大きくなったな。ミライ」
男はそっとミライの頭に手を置き、ポンポンと優しく叩いた。
「覚えてるか? 森田だよ」
ミライはその名に聞き覚えがあったのか、少しだけ目を大きくして微笑んだ。
それを見た森田は嬉しそうに笑った。
「まさか、おまえが歌手とはな。ぜんぜん気付かなかったよ。まあ、おまえの歌なら人気が出て当然だがな」
「当たり前じゃん。ミライの歌は昔からわたしたちの自慢なんだから」
ミユウが言うと、森田も笑って頷いた。
そんな二人をミライは嬉しそうに見つめていた。

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