《MUMEI》
last kissは私に…【最終話】
 
 曲が終盤に差し掛かった頃だった、彼女は突然頭を起こすと今度は驚くような難問を僕に浴びせてきたのだった。


「ねぇ、マスター。
そんなに今の私に魅力を感じてるなら今ここでキスしてもいいのよ。
私は本気…。
さあ、このピンチをマスターはどんなジョークでかわすのかしらね?」


 それと同じタイミングで『One More Night』の曲が静かに終わった。



僅かな沈黙の後、僕はこう答えたのだった。



「この世にあなたの唇ほど甘いカクテルは存在しない。

 悲しいかな僕の仕事はバーテンダーです。
 今あなたとキスをしてしまってはこの後自分の作るカクテル全てに自信を失ってしまいます。

僕が世界一のバーテンダーになる日までご褒美のキスは大切にしまっておいてください」


彼女は外国人がよくやるそれのように首を左右に振りながら両脇に手を広げ、


「参りました。
完全に私の負けね…」

とだけ言った。




 そしてその後、大掃除を手伝ってもらったお礼にホワイト・ラムをベースにした少し強めのカクテルを彼女にプレゼントすることにした。


 そのカクテルの名前が 『ラスト・キッス』 だったって事はずっと未だに彼女には言えずじまいでいる…


─END─

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