《MUMEI》 少年 〈私〉椎名くんが、「帰るぞ」って言ったのが分かった。 すぐに椎名くんの元へ駆け寄る。 「更衣室で着替えて来い。…外で待ってるから」 椎名くんは私にそう言って、道場の扉へと足を向けた。 私は、さっきの更衣室へと向かった。 扉を開けると、椎名くんのトロフィーたちが私を出迎えた。 着替えようと黒帯に手をかけたとき、あるものに目が留まった。 写真立てに、3人の人が並んで写った写真が入って、 棚の隅っこに、静かに佇んでいた。 大会の写真かな…?? 並んだ3人の、向かって左端が、今より少し若々しい清水さん。 右端が、これは―…椎名ママ?? …今より若いけど、少し疲れたような微笑み。 真ん中の男の子は、一目で分かった。 茶色い髪に、白い肌。面影が確かに残ってる。 道着を着て、挑むような眼で、こっちを見ている。 …首から提げてるのは―…金メダル?? 幼い日の、椎名くんだ。 いつの頃のだろう。 そう思って、写真立てに手を伸ばす。 …ふと、 その写真に、椎名くんのお父さんが写ってないことに気付いて、伸ばしかけた手が止まった。 木枠の写真立ての中から、 少年だった椎名くんの真直ぐな眼が、 私をじっと見据えていた。 前へ |次へ |
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