《MUMEI》

「……じゃ、じゃ〜ん。」

乙矢を引導しながら仕事中の社員を注目させてみた。

忙しい時に何をしとんじゃという無言の攻撃が痛い。

「こ……恋人の乙矢君で〜す?」

二人で腕組んでみたり。
笑いどころか言葉も無い。

「宗方さんが若い恋人が出来たのが嬉しすぎて仕事放って奥の自室でエッチしたいそうなんですけど」

社員1、岸君に痛恨の一撃を食らわされた。

「一時間でお願いします。」

社員2の約束は悪いけど、守れない。

「気張って下さい」

「いや、若いって羨ましいっす。」

「社長、意識飛ばすのは無しですよ?」

好き勝手話し出したから逃げるように部屋へ行く。



「人気だな」

「まさか、ふざけてんの。まあ、彼等なりの歓迎だ。俺がゲイって分かっても仕事してくれるいい奴らなんだよ。」

ベッドに引きずり込む。

「……へぇ。」

乙矢の寛げた襟元から逞しい胸囲が見える。

「乙矢がいつか言ってくれた通りだ。
俺が一人で堪えられたのは乙矢が居てくれたからだし、頑張ってこれたのも乙矢の言葉があったから。」


一人になんてならないさ。こんなに危なっかしい奴、みんな放っとかない……
夢の狭間で乙矢が囁いてくれたそれに幾度励まされただろうか。

「言魂だな。是清が寂しくなくなるように……、効いたみたいだ。」

コトダマ、乙矢が言うのは言葉が真実になるというあれか。

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