《MUMEI》
普通じゃない賭け
「…賭け?」


大さんの言葉に俺は頷いた。


「ベッドの上に包丁を置いて…その上に、俺を置いてから出ていったんです」


一度忍に押し倒されて実感したが、あのホテルのベッドは柔らかく、よく沈んだ。


生まれたばかりの俺は、当然、身動きもとれず、泣き叫ぶばかりだった。


「運良くホテルの人の発見が早くて、俺は助かりました」


生まれた子供を売ろうと思っていた売春宿のオーナーは、女が出てすぐに、部屋に入ってきたから。


「そして、俺はホテルのオーナーの知り合いに預けられました」


そして、俺は特売品として、旦那様に売られた。


「それが、藤堂さん?」


忍が俺の保護者になっているのだから、俺は頷いた。

大さんは忍に連絡をしたが、大事な用事があるから、十月にならないと来れないと言っていたと説明した。

(仕方ないよな)


旦那様の一周忌は、もう明日に迫っていた。


「君の身の回りの物は、大家さんに届けてもらった。
それから、志貴と、祐が面会したいって言うんだけど…」

「志貴には、…会います」

祐には会いたく無かったが、文化祭を途中で投げ出した事を、俺は志貴に謝らなければならなかった。

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