《MUMEI》
面会
高山夫妻と入れ違いに、志貴が病室に入ってきた。


「もう、大丈夫?」

「うん、ごめん」


俺の言葉に、志貴は首を横に振った。


「謝るのは、私の方だわ」
「志貴?」


俺は、何故志貴が謝る必要があるのかわからなかった。


「強引に演劇に誘って、…改造して。
祐也が倒れるほど、無理させて」

「違うよ!」


俺は慌てて否定した。


「志貴のせいじゃないよ」
「じゃあ、どうして?」


祐のせいだと答えれば、祐との保健室でのやり取りを説明しなければならない。

だから、俺は


「ただの夏バテだよ」


苦笑しながら、答えた。


「本当に?」


俺は深く頷き、今度は精一杯の笑顔を志貴に向けた。

「じゃあ、どうして祐には会わないの?」


志貴の質問に、俺の笑顔が凍りついた。


「祐から、かわりに質問してくれって頼まれてた事があるんだけど…」

「何?」


俺の表情は無意識に険しいものになってしまったらしく、志貴が迷っているのがわかった。


「言って」


どうせ、くだらない事だろうと思ったが、一応聞いておかないと、志貴も困るだろうと思った。


志貴は、ゆっくりと口を開いた。

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