《MUMEI》
挨拶
「せっかく早苗が帰って来ると言うから楽しみにしてたのに、これは一体どういうことだ」

……と言いたげな顔をして、早苗のお父さんはオレを見ていた。

「初めまして。僕は谷口有理、と言います」

「…ああテレビで見ましたよ。双子だそうで」

「ハイ。この通り、歩けなくて辞めました」

「それで今日はどんなご用件でこちらに?」

「それは私から話させてください」

早苗が割って入ってきた。決意のこもった、強い口調だった。

「お父さん、お母さん、あのね、何も言わないで聞いてね」

早苗の両親が小さくうなずく。

「私ね、この人の子供を妊娠してるの」

ど真ん中ストレートが見事に決まった。

固まってしまった早苗の両親を見て、オレは早苗をつっつく。

「もうちょっと言い方あるだろ」

「無いわよ」

「……あると思うけどな」

「さ…早苗、悪い冗談はよしなさい。だってその子はまだ若いし、大体そんな年齢でもないでしょう?」

「僕17です」

「子どもが生まれる頃には18歳よ。法律的にはまったく問題ないわ」

「17!?早苗より2つも下じゃないか!」

「お父さんとお母さんだって7つ違うじゃない」

早苗はとても強かった。

……ただ逆効果のように見えた。

「だから結婚…か?」

「早い話そういうことよ」

「仕事はどうするんだ」

「休む。または辞める」

「そんな簡単に決めてどうするんだ?どんな気持ちで私達がお前を東京に送り出したと思ってるんだ?こんなに早く結婚させるためじゃない」

「わかってるわ!一人っ子の私をあんなに早く手放すことになって、お父さん達がどんなに寂しい思いをしているか……。それでも私の夢を応援してくれて本当に感謝している」

「早苗……」

「私だって寂しかった。そんな時にこの人が、有理が…現れたの」

すぐに赤面するクセ直らないかなって思う。

本当に心から感謝されたり、褒められると照れてしまう。今だってそうだ。

「少し生意気でぶっきらぼうだったけど、優しくて、忙しいのにまめに連絡を入れてくれたの。連絡って言っても、今撮影終わった、とかお腹空いたとか本当に他愛のないものだったんだけど、それすら嬉しくて……」

褒められすぎると、背筋が緊張して悪寒がしてくることがわかった。

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