《MUMEI》
名前
「ちょ、…祐也!?」


ベッドから降りた俺を、志貴は止めようとした。


「離せ!」


俺は裸足のまま、ヨロヨロと病室の扉を開けた。


(…いた!)


予想通り、廊下には祐がいた。


「おい、動いて大丈夫なのか?」


「うるさい!」


俺は近付いてきた祐を怒鳴りつけ、壁に押し付けた。

普段なら余裕の動作だったが、体が重く、それだけで俺は息が上がっていた。


「おい、無理…」


「何で!」


俺は、ここが病院で、人目につく廊下だということも忘れて叫んだ。


「何で!お前がっ…」


(旦那様の名前を)


「也祐(なりひろ)を知ってる!?」

「はぁ?」

「とぼけんなよ!志貴が言ったんだ!『也祐って誰?』って!
お前がそう訊けって言ったって!」

「…あぁ」


ようやく事態を把握した祐に俺はもう一度叫んだ。


「何で也祐の名前をお前が知ってるんだよ!」

「お前が言ったからだよ、祐也」


俺の質問に答える祐の口調は、忍のように冷たく落ち着いていた。


「…俺、が?」


(俺が、旦那様の名前を?)

「そうだよ、祐也。倒れる前に、お前が呟いたんだ。『也祐』って」

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