《MUMEI》
浮かない顔のお客
カランカランッ


「いらっしゃいませ」


いつものように、ホールに咲子さんの明るい声が響いた。


「…こんにちは。お久しぶりです」


「ど、どうしたの!?」


(何事?)


咲子さんの声に、私も厨房からそのお客を見つめた。

外は十月にしては暖かいはずなのに、入ってきた女性客の顔は、青ざめているように見えた。


私も咲子さんと同じように、その女性に見覚えがあったから、驚いてしまった。

「とにかく、カウンターに座りなさい。ちゃんと、お昼は食べたの?」


「食欲無くて…」


その女性はヨロヨロと席に着いた。


時刻は既に午後四時になっていた。


「雑炊、作りますから、少しでも食べて下さい」


「…ありがとう」


そして、私は弱々しく微笑む女性


愛理さんの夫の相田さんさんのいとこ


相田 洋子さんの為に、急いで卵入りの雑炊を仕上げた。


「ゆっくり、よく噛んで食べて下さいね」


「…いただきます」


洋子さんは、ゆっくりと雑炊を口に運んだ。


「美味しい」


(良かった)


私は少しずつ雑炊を食べる洋子さんに気を配りながら、仕事を続けた。

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