《MUMEI》
いつもの光景
「蝶子ちゃん、そろそろ来るわよ」


咲子さんに言われ、私は時計を見つめた。


時刻は四時二十八分だった。


「そうですね」


ホールを見ると、『本日のケーキセット』を食べ終えたお客が、ソワソワしているのがわかった。


(毎回毎回…)


何度も裏口からと注意しているのに、勢いよく店内に入ってくるから、お客がなかなか帰ってくれなくて、私は咲子さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

当の咲子さんは、『これはもうある意味『クローバー』の名物よね』と楽しんでいた。


時計の針が、四時半を


ティータイムと


私の仕事の終了時刻を告げた。


「蝶子〜、お疲れさま!」
「ママ〜!」×3


勢いよく、入ってきたのは

私の…夫、俊彦と


三人の子供達だった。


俊彦は、子供達と私を迎えに行く為に、わざわざ仕事を抜けてくる。


『クローバー』の近くに、子供達の通う保育園があるから、ついでに私の迎えに来るのはわかるが…


(この過剰なスキンシップはどうなの?)


迎えに来るたびに人前で抱きしめるのは、やめて欲しかった。


「やめてよ!」

「「やめろよ、トシ!」」

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