《MUMEI》
言わなかった言葉
「なぁ…」


楓さんが病室の扉を勢いよく閉めて慌ただしく出ていった後、祐が口を開いた。

「何だよ」

「これ以上、祐也を興奮させないでよね」


俺と志貴に睨まれて、祐はタジタジだった。


「い、いや。祐也が大変なのに…
何で、保護者や恩人さんが来ない…」


シュンッ!


俺が投げた花瓶が、素早く避けた祐の横を通り抜け


パリーンッ!


壁に叩きつけられ、…割れた。


中に入っていた見舞いの花が散乱し、水が垂れていた。


「ひ〜ろ〜! あんたは、また!」

「な、何だよ!素朴な疑問だろ!
普通の質問だろ!」


今にも殴りかかりそうな志貴を、必死に祐はなだめていた。


(そうか、普通の質問か)


ソレナラ、コタエナケレバナラナイ


俺は、静かに告げた。


「…来られないから」


「「え?」」


俺の言葉に、二人が俺に注目した。


「也祐さんは…」


(也祐に、さんを付ける日がくるとはな)


俺は、かなり間をおいて


「死んだんだ」


一度も、認めたくなくて、口にしなかった事実を初めて言葉に出した。


涙はかれる事は無いらしく、それだけで、目頭が熱くなり、溢れてきた。

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