《MUMEI》
とっておきの一言
「あ〜う〜… でも〜」


俊彦は、それでもなかなか動こうとしなかった。


洋子さんは、商店街から電車で二時間近く、車で一時間半の同じ県内の市内に住んでいる。


車での時間の方が短いのは、電車だと乗り換えがあるからだ。


洋子さんは、いつも車で来ているが、明日は水曜日で仕事のはずだから、あまり長居はできないと思った。

(仕方ないな…)


私は、奥の手を出す事にした。


「…俊彦」


私は、俊彦のスーツのジャケットの裾を軽く引っ張って、皆から少し離れた。


私がそうするのは、ある事を言う時だから、俊彦は、嬉しそうに私についてきた。


「何?」


少し身を屈め、私に耳を近付けてくる。


(恥ずかしいんだよなぁ…)

これが俊彦には一番だとわかっていても、私は毎回赤くなってしまう。


「蝶子、早く」


私は、お預けとは真逆のとっておきの一言を、俊彦に伝えた。


「今晩…いっぱいしていいから、…帰って」


「さぁ!帰るぞ子供達! 遅れずに付いてこい!」

「一番ぐずってたくせに…」

「「トシ、へん」」


俊彦は、子供達に何を言われても、上機嫌で、すぐに家に帰っていった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫