《MUMEI》
子供の夢
 
「最後、一番大事な三つ目の約束だ。

"子供の夢を絶対に壊しちゃだめだ。"

 抽象的な約束になるけどけして難しい事じゃないはずだよ。
 かつては君も子供だった。
そのことを忘れさえしなければいいだけの事だから…」


 ちょうどミッキーが三つ目の約束事を話し終えた時、キッチンの方から青年の母親の呼ぶ声が聞こえてきた。


『ウォルター!
ウォルト、ウォルト!
 チェリーパイが焼けたわよ。
こっちへ来て一緒に食べない?』


「ヤバい、ママが呼んでる」


青年は慌ててミッキーを自分の手のひらに乗せて本棚の一番上へと運ぶ。
 ミッキーが言った。


「いいかい?君が約束を守ってくれて初めて僕が恩返しができた事になるんだ。 君ならきっとやり通せる。
僕がずっとそばで見守っている事を忘れないで」


「うん、分かった。
約束は必ず守るよ。ありがとう。
…じゃ、ママんとこ行かなきゃ」


「じゃ、頑張って、ウォルト君…」



─────


「話し声がしてたみたいだけど、誰か居たの?」


 焼きたてのチェリーパイを青年の皿に取り分けながら母親が尋ねた。


「いや。誰もいないよ」


「そ…、気のせいだったのかしらね」


「ねぇ、ママ。
ママは人間の言葉を話すネズミを見たことがある?」


「あはは…。何を言い出すのかと思ったら。
そうね、残念ながらないわね。
 でも子供の頃夢の中で耳を羽ばたかせながら大空を飛ぶ象なら見たことがあるわよ」


「ふーん。空を飛ぶ象か…。
そりゃいいね…」


 そう青年は呟いて大好物のチェリーパイを口一杯に頬張った。

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