《MUMEI》

『ほらっ。
あの子が“橘 璃久”よ!坂城くんに色仕掛けで迫ってるって噂の…。』


『うそ〜あの子!?
顔はブスじゃん〜(笑)!
取り柄はデカパイだけなんじゃな〜い!?』


“…………。”
このくらいの嫌がらせにはもう慣れた。


あの日以来…
私は“3股かけて、元彼をフッた後、坂城くんを狙っいる”…という女で、定着していた…。


“…はぁ〜。
今まで友達だった子達まであっけなく裏切るんだ…。…なんか切ないな。”


学校に“友達”と呼べる子は、もう1人もいなかった…。


“…うっ…うっ…(涙)”


私は、昼休みに屋上で泣くのが日課になった…。


“変な噂はどんどん広まるし…
元彼の借金は背負わされるし…
変態(稜兄)の所でバイトしなくちゃいけないし…
一人ぼっちだし…。”


“もうイヤだ…。”


ガタンッ


“…えっ!?”
誰もいないはずの屋上で、物音がした…。


『あれ〜!?
どこのガキが泣いてるのかと思ったら、家の“お手伝いさん”じゃん!!』


“渉だった…。”


『泣いてなんてないよ!
ちょっと考え事してただけだもん…。』


私は涙を拭い、とっさに嘘をついた…。


渉は、腰掛けてた屋根からヒョイっと降りると、私の隣に黙って座った…。


『…悪かったな。
俺も、もう少し気を付けるべきだったよ…。
こんなことになったのは、俺のせいだな…。』


渉は、空を見上げながらボソッと言った…。


『…ううん。
元は私の“まいた種”が原因だもん…。
渉のせいじゃないよ…。』


…本心だった。
過去の罪が自分に返ってきたのだから…。


『…バイト…イヤだったら辞めていいぞ。』


渉が言う…。


『…ううん。辞めない。
学校で、みんなにシカトされてるんだもん。
坂城家だけが私の“心の拠り所”だよ…。』


『…そうか。』


『…うん。』


この日から私と渉は、昼休みの度に、屋上で会うようになった…。


待ち合わせをしている訳でもないのに、缶コーヒーを2本買って屋上で寝転んでいる渉に会うのが、私の唯一の楽しみだった…。


『…なぁ璃久。
…今日の晩飯なに?』


『…う〜ん。決めてない。渉、何食べたい?
どうせ買い物行くんだから何でもいいよ〜!』


『…そうだな。
食いたいもん思い付かねぇわ。…俺も買い物着いてこうかなぁ…。』


屋上で2人きり…。
隣で寝転んで“新婚夫婦”みたいな会話…。


『うん。一緒に行こう!
………ってダメじゃん!
そんなとこ、また誰かに見られたら次は噂じゃ済まないよ…。』


『…あぁ。それもそうか。…でも、食いたいもん決まらねぇし…。
…そうだ!いいところがある。よしっ!あそこだ!
じゃ璃久!放課後な!』


渉はイキイキしていた。
よっぽど買い物に行きたかったのか…
それとも、いい場所を思い付いた事が嬉しかったのか…分からなかったけど、
珍しく、はしゃいでいる渉は何だか可愛いかった。


私は少し戸惑いつつ、行き先も知らされぬまま、渉に着いて行くことになった…。

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