《MUMEI》

カフェオレが胃袋の中で暴れだしたからか、少しむせた。
胃も痛み始め、今、頼れるのは自分自身だけだと思い、ひたすら走った。

いくつもの店、いくつもの香水、いくつもの小路を横切り、サトルのいる私の部屋まで…。

サトルは一度は私を探しにこの階段を降りてきたのかしら……
降りてきてほしい……

すでにサトルを許しかけている自分に気づく。

降りてきてほしい……

しばらく階段の下に佇みながら、期待をしていた。

何人かの住民がチラチラと私を見ながら階段を上がる。

近所の目もあるから……………………………………
だから戻ろうかしら。
アメリカに居ながら、やはり日本人の自分に気付く。
一段一段上り、途中で止まり、耳を澄ませる。

安心したい期待と不安。
賭けのような期待と不安。
せめて玄関まで迎えにきてよ……
祈る気持ちでチャイムをおした。

ピンポーン……

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