《MUMEI》
不安
「由自、俊くんも呼んで来なさい。男の一人暮らしできちんと食べているのか心配よ」

「え――?」

渋々立ち上がる。

まさかお袋にケンカ中だなんて言えやしない。






ドンドン




「し―…俊!いるんだろ?オレのお袋がメシ作ってるから、お前も食えってさ。こ、来いよ」



ガチャ……


「……………おばさんが言うなら行く」



ムッッッカつく――!!

何だよそれ!

ちょっとそっけないってのがこれまたオレの神経逆撫でしてるんですけど。

……あっちの方でも。




「私の料理食べるのってもう久しぶりでしょう?いっぱい食べてね」

「ハイ。ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えていただきます」






ここからオレと俊の戦いが始まる。

どっちが多くかつ速くお袋の料理を食べるか恒例の戦いになる。

他にも最後のハンバーグをどっちが先に取れるかとか、くだらない戦いはオレ達にとってはすごく大切な儀式なんだ。



カチッ



箸と箸がぶつかり合った。
睨み合う。

「まだあるんだからケンカしないの」

そんなことは今は関係ない。

この皿の上にある最後のハンバーグが重要なんだ。他のハンバーグじゃダメなんだ!

「……お前にやるよ」

「え?」

「俊くんは大人ねぇ」

「イエ。いつまでも子供の様なことはできませんからね」

「由自も見習わないとね」

……なんだよ、それ。








「どこのホテル?」

「送らなくて大丈夫よ。タクシーで行くから」

「じゃあタクシーつかまえてやるよ。下に降りよう」


俊がオレの両親にもよろしく伝えてくださいとかお袋に言ってから、タクシーは去って行った。

「俊。ちょっと話あるんだけど……いいか?」

「オレは無いけど」

「オレがあるんだよ!いいから戻ろ」









「俊、あのさ聞きたいことあるんだけど聞いてもいいか?」


返事がない。

一応YESということで。

「こ…恋人とかできたのか?」

「はぁ!?」

あれ違うっぽい…。

「あの……ゴメンな。オレまた俊に勉強教えて欲しい。俊と一緒に大学通いたいんだ」

「由自……」

「俊が好きだよ。でも―…俊は全然ヌいてないみたいだったから、もしかして他に恋人でもできたのかなって不安になっ」


気付いたらオレは俊の腕の中にいた。


「もう――…いいよ」

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