《MUMEI》
4#霧の屋敷B
老人の檻から抜け出そうともがいていたベッコウが器用に首だけ振り向く
「だれ〜〜??知ってる人ぉ〜?」
「はい、今宵は佐々木様でございます」
ピクンとベッコウの動きが一瞬止まる。
老人の腕から抜け出し着物をハタキ振り向くと、にっこりといつもの笑顔に戻っていた。

―――気のせいか?

あまりに一瞬の事に気付いたのは草馬だけだったようだ。
妙な不安感を払拭するように、草馬は頭を振り立ち上がった。

「すぐ〜いくねぇ〜」
ベッコウの返答を受け取り、障子越しに居た伝達係りが立ち去って行った。
「何度目かのぉ〜お侍さんは、ベッコウがお気に入りじゃのぉ」
アカメとアオメにも抜け出された老人は腕を組みながらベッコウを眺める。
「ベッコウはマジで人気あるよなぁ!一体、床でどんな事してるんだよー俺達にも教えてくれよー」
いいよな!いいよなーと言いながらアカメがベッコウの肩に手を回して絡む。
「アカメ、やめなさい。ベッコウさんが困ってますよ」
「えぇ〜ぼくぅ、別に変わった事なんてぇしてないよぉ〜アカくんもアオくんも人気あるとおもうなぁ」

実際、妖怪兄弟も人気はある訳で、やっかみと言うより夜が始まる少しの不安を揉み消す為に交わされている様に見えた。
人気がある、すなわち毎夜毎夜一人で眠る事は叶わず、見知らぬ顔と一晩過ごす事もある。
相手がどのような人格か分からぬ以上、不安は付き物であるのだろう。
屋敷で過ごす一晩は安くは無い。
それゆえ訪ねてくる人間は限られるが、戦の後は強奪した金品で興味本位で訪ねて来る輩も少なからず居る。

「失礼致します。アカメ様・アオメ様、客人でございます。」
障子越しにまた、声がかかる。
やはり、忙しくなってきた。

「おー行くぜー」
「はい、わかりました。」
そう言って、兄弟は障子を開け客の待つ部屋へと消えていった。

「じゃぁ〜ぼくもぉ〜行って来るねぇ〜じゃぁね〜草馬ぁ」
パタパタと手を振りベッコウが部屋を後にする。
草馬は小さく頼りないベッコウの後姿を送り出しながら、チクリと体の中心が熱くなるのを感じた。

――――引き止めたい。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫