《MUMEI》
【ベリーショート】一話読み切り
 
 BARへの出勤途中、煙草を買うためにコンビニに寄った。

 店内に入ると、ちょうど僕の目の前を横切るようなタイミングで幼い少女が手のひらいっぱいのお菓子をレジの上に広げた。
 ひとりで買い物が出来るぎりぎりの年頃だろうか…。

 そして少女はレジ脇に置いてあった半額処分のテディベアのぬいぐるみに気付くと、プライスをじっと見つめた後、それを手に取り、カウンターの上に置いたのだった。


「1,035円です。」


 その店員の言葉に少女は身を固くしてしまった。
 少女の手には千円札が一枚。
 おそらく持っているのはそれだけなのだろう。

 僕は思わずそのカウンターのそばに近づいた。


「割り込んでゴメン! 急いでるんだ、マルボロメンソールライトを。」


 そう言って400円をカウンターの上に置いた。

 店員が慌ててマルボロを僕に手渡す。


「お釣りは募金箱へ…、
もし何ならテディベアの洋服代にしてくれても構わんよ。」


 そう言って僕はそのままコンビニを後にした。

 横断歩道を渡りきってコンビニの方へ振り返ると、ちょうどさっきの少女が店から出て来るところだった。

 その胸元にはテディベアが大事そうに抱かれていた。
 嬉しさに踊るような笑顔だ。



『15年後にその笑顔でマルガリータでも飲みにおいで…。』



 胸の中でそう少女にささやいて、僕は再びBARへと歩き始めた。


─END─



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